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正社員とフルタイム・無期雇用労働者間の待遇格差について

 「同一労働同一賃金」というと、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との待遇差を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。 実際、パートタイム・有期雇用労働法(以下「パート・有期法」)は、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との不合理な待遇差の解消を目的とした法律です。 ところが、ここには一つ注意すべき点があります。 フルタイム・無期雇用労働者には直接適用されない パート・有期法が対象としているのは、文字どおり「短時間労働者」や「有期雇用労働者」です。 そのため、例えば「契約社員」という名称であっても、フルタイムで無期雇用となっている労働者については、パート・有期法の直接の適用対象とはなりません。 では、正社員とフルタイム・無期雇用労働者との待遇差を会社が自由に決めてよいのでしょうか。 そうとはいえないことを示したのが、令和7年の「東北映像事件」です。 東北映像事件が示したこと この事件では、正社員とフルタイム・無期雇用の契約社員との間の待遇差が問題となりました。 判決では、フルタイム・無期雇用労働者についてはパート・有期法の直接の適用はないものの、正社員との待遇差について、パート・有期法8条などの趣旨に照らして不合理といえる場合には、その待遇差が公序良俗に反し、民法90条により違法となり得るとの考え方を示しました。そして、実際に、賞与の一部、家族手当、住宅手当について不合理な待遇差があるとして、会社に損害賠償を命じました。 つまり、 「パート・有期法の対象ではないから、正社員との待遇差は問題にならない」 とはいえないということです。 もちろん、すべての待遇差が直ちに違法となるわけではありません。 職務内容、責任の程度、人材活用の仕組み、配置転換の範囲など、さまざまな事情を踏まえて、その待遇差に合理的な理由があるのかを検討する必要があります。 しかし、正社員と無期雇用の契約社員などとの待遇差についても、企業として慎重に考える必要があることを示す判決といえるでしょう。 10月からガイドラインも変わります さらに、令和8年10月1日から、同一労働同一賃金ガイドラインの改正が適用されます。 今回の改正では、無期雇用・フルタイム労働者についても、パート・有期法の対象となる労働者との労働契約を締結・変更する際に、均衡を考慮する上で、同一労働同一賃金ガイドラインの趣旨を...

9月から「残業45時間超でもOK」になった?

2026年9月1日から、労働基準監督署による時間外労働等の監督・指導の運用が見直されました。 このニュースについて、経営者の方とお話ししていると、 「9月から残業45時間の規制が緩くなったのでは?」 という誤解もあるようです。 結論からいうと、残業時間の上限規制そのものが変わったわけではありません 。 以下、厚生労働省の正式発表をもとに、私なりに整理してみます。 原則月45時間・年360時間という上限規制は変わっていない 時間外労働は、原則として、 月45時間・年360時間 が上限です。 ただし、臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項付き36協定によって45時間を超えることができます。 特別条項を設けた場合でも、次のような上限があります。 時間外労働は年720時間以内 時間外労働+休日労働は月100時間未満 時間外労働+休日労働は2~6か月平均80時間以内 月45時間を超えることができるのは年6か月まで したがって、「9月から45時間を超えてもよくなった」ということではありません 。 では、何が変わったのか? 今回見直されたのは、労働基準監督署の監督・指導の運用です。 厚生労働省は、9月1日から、 「時間外・休日労働時間数のみに着目して、1か月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直す」 と発表しています。 その一方で、36協定で定めた健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を重点的に確認し、状況に応じた必要な指導を行うとしています。 つまり、厚労省の発表を読む限り、今回の見直しは、 「45時間の規制を緩和する」 というより、 「45時間を超えたという時間数だけに着目して一律に指導するのではなく、36協定で定めた健康・福祉確保措置の実施状況なども確認し、事業場の状況に応じて指導する」 という方向への変更、と理解するのがよいのではないでしょうか。 経営者が注意したいこと 「9月から45時間を超えても大丈夫になった」と考えるのは適切ではありません。 むしろ、特別条項付き36協定を締結している企業は、自社の36協定の内容と実際の運用を確認しておくことが重要です。 例えば、 特別条項の内容 特別条項を発動する場合の手続 健康・福祉確保措置 時間外労働の上限管理 などを改めて確認しておくことをおすすめします。 また、厚労省は、過重労働による健康障害が生じるおそれが高...

「同一労働同一賃金」の例外となる会計年度任用職員――自治体に求められる説明責任とは

 2020年から本格的に始まった「同一労働同一賃金」。民間企業では、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間に不合理な待遇差を設けることが禁止され、企業にはその違いを合理的に説明する責任が求められています。 現在では、「なぜこの手当は支給されないのか」「なぜ賞与に差があるのか」といった疑問に対し、企業は職務内容や責任の違いを根拠として説明できなければなりません。 ところが、このルールには大きな例外があります。 それが、地方自治体で働く 会計年度任用職員 です。 会計年度任用職員は地方公務員であるため、パートタイム・有期雇用労働法の適用対象外です。そのため、民間企業に適用される「同一労働同一賃金ガイドライン」や待遇差の説明義務は直接及びません。 もちろん、公務員制度には独自の考え方があります。 正規職員には、長期的な人材育成を前提とした人事異動、政策立案、管理監督、災害対応など、組織全体を支える役割が期待されています。一方、会計年度任用職員は一定の職務に限定して任用されるため、制度上は両者の職責が異なるという整理です。 この考え方自体には一定の合理性があります。 しかし、現場ではどうでしょうか。 自治体の窓口、保育所、図書館、学校、福祉部門などでは、会計年度任用職員が住民サービスの中心を担っているケースが少なくありません。住民から見れば、正規職員と同じ窓口で同じ説明を行い、同じ責任感を持って仕事をしているように映ることもあります。 もちろん、目に見える業務が同じだからといって、職責まで同じとは言えません。しかし、その違いが職員本人や住民に十分説明されている自治体は、決して多くないのではないでしょうか。 もしこれが民間企業であれば、「業務内容や責任にどのような違いがあり、その違いが待遇差にどう結び付いているのか」という説明が求められます。 一方、自治体では、そのような説明責任が法的には同じレベルで課されていません。 ここに、制度上の大きなギャップがあります。 さらに、2024年度からは会計年度任用職員にも勤勉手当を支給できるようになり、処遇改善は進みました。しかし、これはあくまでも制度の一部を見直したものであり、「同一労働同一賃金」を実現するための制度改革ではありません。 近年は人材不足が深刻化し、多くの自治体が会計年度任用職員の採用に苦慮しています。募集して...

ダブルチェックはなぜ機能しなかったのか

医療事故などで原因がダブルチェックが機能していなかったという報道を耳にする場合がありますが、なぜ機能しないのでしょうか。 仕事を行うに当たってダブルチェックはミスを防ぐための有効な仕組みとして多くの職場で導入されてると思います。しかし実際には、ダブルチェックが行われていたにもかかわらず事故やミスが発生するケースも少なくありません。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。 その主な原因の一つとして挙げられるのが、 二回目にチェックする者が一回目のチェックは正しいという前提で確認してしまいやすいことです。 つまり「すでに誰かが確認しているのだから間違いはないだろう」という思い込みが働き、確認作業が形式的になったり、注意深さが不足したりする傾向があります。本来ダブルチェックは独立した二重の確認であるべきですが、こうした心理的な要因によってチェックの質が低下してしまうことがあります。 また、チェック手順が明確でない場合や、業務が忙しく十分な時間をかけられない場合も、ダブルチェックが形だけのものになりがちです。 では、ダブルチェックを有効に機能させるためにはどのような対策が必要でしょうか。 まず重要なのは、二回目のチェックは一回目とは独立した確認であるという意識を徹底することです。 可能であれば、一回目の結果を前提にせず、同じ資料や情報を基に改めて確認する方法を取り入れると効果的です。 次に、チェックの手順を明確にしたチェックリストを作成し、確認すべき項目を具体的に示すことも有効です。チェック内容が明確になれば、確認作業が形式的になることを防ぐことができます。また、ダブルチェックを行うための時間的余裕を確保することも重要です。業務が過度に忙しい状況では、どうしても確認作業が簡略化されてしまうからです。 さらに有効な方法として、 他の観点からチェックがかかる仕組みを取り入れること も挙げられます。同じ業務に慣れている者同士で確認すると、どうしても同じ思考パターンになりがちです。その結果、同じ見落としが起こる可能性があります。そこで、別の部署の担当者や異なる立場の人が確認する仕組みを取り入れると、新たな視点からのチェックが可能になります。いわば「視点の異なるチェック」を組み合わせることで、見落としのリスクを減らすことができます。 また、職場全体として「ミスを見つけることは組織を守...

結婚と恋愛の関係について ― 亀井勝一郎の著書から考える

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先日、久しぶりに再読した、文芸評論家である 亀井勝一郎 の著書『 人生の思索 』の中に、結婚と恋愛の関係について、示唆に富む一節がありました。やや長いですが、まずはそのまま引用します。 結婚は恋愛の連続であるとともに終結である。 「結婚は恋愛の墓場だ」と言われる。人はしばしば結婚してから失恋するものである。それはどういうことであろうか。 それまで互いに気づかなかったさまざまの弱点に気づくということもある。恋の惰性もある。移り気もある。しかし、そのために一々離婚していたら、人の一生は離婚の一生となるだろう。互いの弱点に気づくとは、互いの人間性に対して開眼させられたということである。弱点や欠陥のない人間はない。もし完全無欠な人間がいたとしたら、そのことがその人間の弱点となる。完全無欠であることによってあきるであろう。 恋愛とは美しい誤解だと言ったが、結婚とは恋愛が美しい誤解であったことへの惨憺(さんたん)たる理解である。結婚は恋愛への刑罰である。しかし、すべての人間が受けなければならない刑罰であるから、これに耐えることが必要である。人生にわがままはゆるされないのだから・・・。 そして、互いに弱点の多い人間同士として、恋愛から卒業し、人間として共同するよう心がけるべきである。それがいやなら一生を独身で送ることだ。その代わりその人は、人生に対する失恋者のような立場に置かれるだろう。 この文章は、「結婚は恋愛の墓場」という一般的な言い回しを出発点にしながら、その本質をより踏み込んで捉えています。特に印象的なのは、「結婚してから失恋する」という表現です。恋愛の最中には見えなかった相手の現実的な側面に直面したとき、理想が崩れ、感情的には“失う”感覚が生じるという指摘です。 しかし同時に、それは関係の後退ではなく、「人間性に対する開眼」であるとも述べられています。つまり、恋愛段階では理想化されていた相手像が、結婚を通じて現実の人間として認識されるようになる。この変化をどう受け止めるかが、その後の関係を大きく左右するといえるでしょう。 また、「完全無欠な人間がいたとしたら、そのことが弱点になる」という指摘は、人間関係の本質をよく表しているように思います。象徴しています。欠点があるからこそ関係は動き、調整され、継続される側面があります。逆に言えば、完璧さを求めすぎる...

学長選考における「意向投票」の意義を改めて考える

先般の京都大学の総長選考において教職員投票で3位だった候補者が次期総長に選出されたことをめぐり 国立大学の学長選考に関して学内の意向投票のあり方が改めて注目されています。今回の報道は、一つの大学の問題にとどまらず、法人化から20年以上が経過した国立大学のガバナンスのあり方を考える契機になるものといえるでしょう。 国立大学が法人化される以前、多くの大学では学長は教職員による学内選挙で選ばれていました。大学は自治を重んじる組織であり、学長は教職員の信任を得て選ばれることが当然と考えられていたからです。 しかし、2004年の国立大学法人化に伴い、学長は「学長選考会議(現在は学長選考・監察会議)」が選考する制度へと改められました。 もっとも、それまでの学内選挙の考え方を一度に廃止するのではなく、多くの大学では教職員の意思を反映させるための「意向投票」が導入されました。 制度は変わっても、学内の意思を尊重するという考え方が残されたのです。 法人化当初、多くの大学では意向投票の結果が重く受け止められ、実際に意向投票で最多得票を得た候補者が学長選考会議でも選出される例がほとんどでした。 つまり、制度上は選考会議が決定権を持ちながらも、実態としては従来の学内選挙に近い運用が続いていたといえます。 その後、大学改革が進む中で、学長のリーダーシップ強化が強く求められるようになりました。 大学には教育・研究だけでなく、経営戦略や財務運営、社会との連携など、法人としての経営能力が一層求められるようになったためです。 この流れの中で、学長選考会議が意向投票とは異なる判断を行うケースも散見されるようになりました。 実際に、意向投票で1位となった候補者が選ばれず、選考の適法性や手続の妥当性を巡って裁判となった事例もあります。 制度上、意向投票はあくまで参考であり、法的拘束力はありません。しかし、教職員から見れば「なぜ投票した結果が反映されないのか」という疑問が生じるのも当然でしょう。 公立大学では、法人化後の制度改革の中で意向投票を廃止した大学が少なくありません。 実際、2025年に公表された全国学長調査によると、学長(理事長)選考において学内意向投票・意向聴取を実施している割合は、公立大学では46.2%であるのに対し、国立大学では77.8%となっています。公立大学では選...

労務コンプライアンス強化のための具体的なアプローチ

 近年、企業経営において労務コンプライアンスの重要性が強く指摘されています。長時間労働、未払い残業、ハラスメントなどの問題は、企業の社会的信用に大きく影響するため、人事労務制度の見直しが必要といわれる場面も増えています。 しかし現実には、経営者や人事担当者から次のような声を聞くことがあります。 「制度の見直しが必要なのは分かるが、日々の業務で手一杯でそこまで手が回らない」 「どこから手をつければよいのか分からない」 「制度を変えると現場が混乱するのではないか」 確かに、人事労務制度の見直しは簡単な作業ではありません。言うは易く行うは難しであり、現場が慎重になるのも無理はないでしょう。しかし、労務トラブルが発生してから対応するだけでは、企業にとって大きな負担となります。 では、労務コンプライアンスの強化にはどのように取り組めばよいのでしょうか。 まず重要なのは、 現状の労務リスクを把握すること です。制度の見直しというと、いきなり就業規則や人事制度を大きく変更することを想像しがちですが、その前に現在の労務管理がどのような状況にあるのかを確認する必要があります。 例えば次のような点をチェックします。 ・労働時間の管理は適切に行われているか ・固定残業代制度は適法に運用されているか ・年次有給休暇の取得管理は適切か ・就業規則と実際の運用に差がないか ・ハラスメント防止体制は整備されているか このような点を確認することで、自社にどのような労務リスクが存在しているのかを客観的に把握することができます。 次に重要なのが、 優先順位をつけた取り組み計画を策定すること です。労務コンプライアンスに関する課題は多岐にわたるため、すべてを一度に改善しようとすると現場の負担が大きくなります。そのため、法令違反の可能性が高いものや、トラブルになりやすいものから順に対応していくことが現実的です。 例えば、未払い残業のリスクがある場合には労働時間管理の見直しを優先する、ハラスメント相談体制が不十分な場合には相談窓口の整備を先に進める、といった形で段階的に取り組むことが重要です。 一方で、企業によっては問題が発生するたびに個別対応を行う、いわば「もぐらたたき」のような対応になってしまっているケースも見受けられます。トラブルが起きるたびに調査や是正を行う方法では、担当者の負担が大きく、組...