学長選考における「意向投票」の意義を改めて考える

先般の京都大学の総長選考において教職員投票で3位だった候補者が次期総長に選出されたことをめぐり 国立大学の学長選考に関して学内の意向投票のあり方が改めて注目されています。今回の報道は、一つの大学の問題にとどまらず、法人化から20年以上が経過した国立大学のガバナンスのあり方を考える契機になるものといえるでしょう。

国立大学が法人化される以前、多くの大学では学長は教職員による学内選挙で選ばれていました。大学は自治を重んじる組織であり、学長は教職員の信任を得て選ばれることが当然と考えられていたからです。

しかし、2004年の国立大学法人化に伴い、学長は「学長選考会議(現在は学長選考・監察会議)」が選考する制度へと改められました。

もっとも、それまでの学内選挙の考え方を一度に廃止するのではなく、多くの大学では教職員の意思を反映させるための「意向投票」が導入されました。

制度は変わっても、学内の意思を尊重するという考え方が残されたのです。

法人化当初、多くの大学では意向投票の結果が重く受け止められ、実際に意向投票で最多得票を得た候補者が学長選考会議でも選出される例がほとんどでした。

つまり、制度上は選考会議が決定権を持ちながらも、実態としては従来の学内選挙に近い運用が続いていたといえます。

その後、大学改革が進む中で、学長のリーダーシップ強化が強く求められるようになりました。

大学には教育・研究だけでなく、経営戦略や財務運営、社会との連携など、法人としての経営能力が一層求められるようになったためです。

この流れの中で、学長選考会議が意向投票とは異なる判断を行うケースも散見されるようになりました。

実際に、意向投票で1位となった候補者が選ばれず、選考の適法性や手続の妥当性を巡って裁判となった事例もあります。

制度上、意向投票はあくまで参考であり、法的拘束力はありません。しかし、教職員から見れば「なぜ投票した結果が反映されないのか」という疑問が生じるのも当然でしょう。

公立大学では、法人化後の制度改革の中で意向投票を廃止した大学が少なくありません。

実際、2025年に公表された全国学長調査によると、学長(理事長)選考において学内意向投票・意向聴取を実施している割合は、公立大学では46.2%であるのに対し、国立大学では77.8%となっています。公立大学では選考会議が主体となる選考が主流となっている一方、国立大学では現在も多くの大学で意向投票が存続しています。

これは、大学自治への配慮や、教職員の意思を学長選考に反映させるという考え方が、国立大学では現在も重視されているためでしょう。

一方で、公立大学では意向投票を見直す動きが進んでいるのに対し、国立大学では依然として約8割の大学で意向投票が実施されています。この違いを踏まえると、国立大学における意向投票の位置付けを改めて考える時期に来ているといえるでしょう。

法人化から20年以上が経過し、大学には教育・研究機関であると同時に「経営する組織」としての視点が定着してきました。

その結果、学長に求められる資質も、研究者としての実績だけではなく、組織運営能力や経営判断力、社会との連携能力などへと広がっています。

こうした環境の変化を考えると、教職員の人気投票だけでは学長を選べないという考え方にも一定の合理性があります。

一方で、意向投票を実施しながら、その結果がどのように評価されたのかが十分説明されなければ、教職員は「投票は形式だけだった」と受け止めかねません。

今後も多くの国立大学で意向投票を存続させるのであれば、学長選考・監察会議にはこれまで以上に説明責任が求められます。

仮に意向投票で1位の候補者を選出しないのであれば、

  • 意向投票をどのように評価したのか
  • どのような選考基準に基づいて判断したのか
  • なぜ別の候補者が大学の将来に最もふさわしいと判断したのか

を丁寧に説明することが不可欠です。

意向投票を実施する以上、その結果を軽視しているとの印象を与えてはなりません。

大学運営には強いリーダーシップが必要である一方で、大学は構成員の理解と信頼によって支えられる組織でもあります。

意向投票は、学長選考を拘束する制度ではありません。しかし、多くの国立大学が今なおこの制度を維持している以上、その結果をどのように評価し、最終判断にどう反映したのかについて、選考会議は大学構成員に対して十分な説明責任を果たすべきです。そうでなければ、意向投票は形骸化し、制度そのものの意義が失われてしまいかねません。

法人化から20年以上を経た今こそ、意向投票を存続させるのであれば、その意義を再確認し、透明性と納得性の高い学長選考の仕組みを構築していくことが求められているのではないでしょうか。


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